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日本クラフト&デザイン文化を支える作家たち

ビロードのようなテクスチャーは、さび。 鉄を1週間かけてさびさせた器には くだものや花がよく似合う。

東京都/八王子市

光本 岳士

Takeshi Mitsumoto

 くだものを盛ればコンポートに、花を盛れば花器にも使えるこの器の素材は、鉄。あたかもビロードのようなテクスチャーは、なんと、さびである。しかし、さびというものの既成概念をくつがえさせられるのは、触れてもくっつかず、しっとりと繊細にさえ見える肌のせいなのか。

 金工の仕事場には、金槌、万力などの鉄製の道具が多い。それが古くなり、放り出されていたりすれば、当然、さびる。このさびを、汚い、と見るのはあたりまえ。しかし、光本さんは違った。作品に積極的に取り入れてみようと思った。それから10年以上、さびの作品をてがけている。

 この肌を作るには、1週間かけてさびさせる。長く置くと、かえってごつごつしてしまったりするのだ。そのさびた肌を手でさすり、ブラシでこすって荒い一皮を落とし、ビロードのようになったら、水酸化ナトリウムで1時間ほど煮る。さびは酸化被膜なので、アルカリで中和させるのだ。そこへ菜種油などを塗って焼き上げる。こうして、やっと、美しいテクスチャーに仕上がり、暮らしの道具としての機能も備わるのである。

 この肌は、水が長くたまれば薄くさびてくる。だから、花器など水を使う場合は、銅、真鍮、銀などの落しを併用する。

 光本さんの仕事場は、東京。この都会に住むからこそ、それを作品作りに生かしたい。器だけの世界にとどまらず、ほかのジャンルとも結びつきたい。そんな思いが、さびの作品を店舗やビルなどの内装に用いさせることとなる。間仕切りにしたり、壁に鉄板を打ち付けて装飾としたのである。ばらのアーチなどのように、ガーデニングに使われることも増えた。個人の住宅では表札にしている人もいた。徐々にその世界は広がりつつある。 さらに現在は、金工とグラフィックデザインを結びつけたCIに関わる仕事に取り組んでいる最中である。確かに、クラフト以外のクリエーターたちと出会えば、斬新な発想がひらめくこともあるだろう。東京という特殊な地域と関わるには、いい方法かもしれない。

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